神代和紙ができるまで

神代和紙ができるまで

紙漉きは11月~3月中旬の厳冬期に行っています。神代和紙がどのような過程で漉いているかご紹介します。

和紙の原料

楮(コウゾ)

クワ科の落葉低木
靭皮繊維は太く強いのが特徴

三椏(ミツマタ)

ジンチョウゲ科の落葉低木
靭皮繊維は細く強いのが特徴

トロロアオイ

別名「花オクラ」
根からネリと呼ばれる粘液を採取

原料を蒸す

 黒皮を剥がしやすくするため、楮や三椏を自家製の蒸し器で蒸します。

皮をはぐ

 蒸し上がった楮や三椏は、冷めないうちに根元から先端に向かって皮を剥いでいきます。

黒皮を削ぎ取る

 剥いだ皮から黒皮を削ぎ取って、白皮だけにします。白皮は天日に干し、乾燥させて保存します。

白皮を水で戻す

 乾燥させていた白皮を水槽に二晩ほど浸けて戻します。浸すことで繊維が柔らかくなり、煮る際にむらがなくなります。

白皮を煮る=
煮熟(しゃじゅく)

 大釜に水と原料、ソーダ灰を加え、手でちぎれるくらい柔らかくなるまで数時間煮ていきます。煮熟の目的は、繊維をほぐれやすくするためと、リグニン※など有害物資を取り除くためです。

リグニン

リグニンが紙に残ると、紙そのものが弱くなり、光や酸素に触れると変色の原因となります。新聞紙が黄色く変色するのは、リグニンが残る安価な紙を使っているからです。

ゴミや傷を取る=
塵(ちり)より

 白皮を水中に浸しアク抜きをした後、皮に残っている黒皮や傷、繊維の硬い部分を取り除きます。塵よりは、美しい和紙を漉くための大事な作業。数時間冷水に手を浸け、3回~5回繰り返します。

皮を叩き砕く=
叩解(こうかい)

 塵よりが終わった白皮を、ビーターと呼ばれる白皮粉砕機で水を入れて撹拌し、繊維が一本一本バラバラになるようにほぐします。叩解の頃合いを判断するのは経験値が必要で、繊維を見た目と手触りで判断していきます。

トロロアオイからネリを抽出する

 トロロアオイの根を石臼で叩きします。潰した根を袋に入れて水に漬けると粘度の高い液が溶け出してきます。これがネリです。ネリは、水に適度な粘りを出し、繊維一本一本を絡むことなく水中に分散させるため紙漉きには欠かせないもの。ただ気温が高いと粘度が弱まります。

紙を漉く

紙漉きには二通りの漉き方があります。

 流し漉きは、日本独特の漉き方です。水を張った漉き舟にトロロアオイの粘液を混ぜ、簀桁(すけた)を前後左右に動かすことで繊維がよく絡み、なめらかで丈夫な紙が漉けます。

 流し漉きの工程には「掛け流し」、「調子」、「捨て水」の三つがあります。
 最初は浅く汲み込み、簀全面に繊維が薄く平均にゆきわたるように素早く操作します。これが「掛け流し」と言い、表面にちりなどの雑物が付くのを防ぎます。
 次の汲み込みを「調子」と呼んでいます。最初よりやや深く汲み込み、簀桁を前後左右に動かして繊維を絡み合わせます。求める厚さになるまで何回も汲み込んでは揺り動かします。天井から吊った竹の弾力を利用して、汲み込まれる水の重さを軽減しながらバランスよく揺り動かします。 
 最後に、汲み込んだ水を素早く流し、簀の表面に残った水を捨てます。これを「捨て水」といいます。紙が漉きあがったら、簀は桁からはずして、紙床板(しといた)に置き、紙と紙の間に空気を入れないように伏せていきます。この時、上に上に紙を積み重ねていくので、ゆがまないように目安の定規にあわせて積んでいきます。

 溜め漉きは「名刺」や「はがき」など、厚い紙を漉くときに行います。「流し漉き」のような工程はなく、汲んだ液を木枠に溜め、少し揺すりながら漉いていきます。漉いた紙の水分は、掃除機のような吸引機で吸い、それを蒸気乾燥機で乾かせば出来上がります。

脱水する=圧搾(あっさく)

 湿った紙を重ねて出来た「紙床(しと)」を一晩そのまま置き自然に水分を流したあと、さらに残った水分を取るために少し大きめの板で挟み圧搾機で重力を加えて脱水します。紙の層を傷めないようい一昼夜かけて徐々に圧搾していきます。出来るだけ強く水を搾り出すことにより緊縮性に富んだ腰のある紙となります。

乾燥させる

 圧搾を終えた濡れ紙は一枚ずつ丁寧にはがし、蒸気を用いたステンレスの乾燥機の表面に貼り、刷毛でなでつけて乾かします。
 また少数ですが、板張りで自然乾燥もさせています。干し板は紙漉きを廃業された市内の工房から頂いた年季の入ったもの。紙に木目が薄く付き、表面に艶があるのが特徴です。

蒸気乾燥機と板干し乾燥

 保存会も使っているステンレスの蒸気乾燥機は、何といっても天候に左右されず作業ができることが最大の長所です。溜め漉きのような厚紙も素早く乾燥することができるため、短時間で乾かすことができます。
 一方板干しはゆっくり乾かすので、紙の繊維に負担がかかりません。また、紙を貼った板を外に出して干せば、紫外線を浴びて紙が白くなります。ただし、傷みのほとんど無い板を使わないとシミが付くことがあります。昔は板干しが当たり前で、保存会もできれば板を増やしたいと思いますが、干し板に最適と言われる銀杏の板など、今の時代とても手に入らないのが実情です。